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いつもの小道のいつも休むベンチ椅子。セリーリャスはそこに腰を下ろし、ヒラソルが持ってきていた水筒のお茶を受け取る。
「お疲れになりましたか?」
ヒラソルの言葉にセリーリャスはコップを頷き、その波紋を見るようにコップを廻した。
「如何しました?」
ヒラソルが心配して側にしゃがんだが、セリーリャスは口を開かない。
「セリ様?」
「あのおばさん、」
「トシノさんですか?」
「私のこと、嫌ってたね。」
ヒラソルは黙った。トシノは席を立ったが目線は伏せたまま。一度見上げたが直ぐに逸らしたのはヒラソルも見ていた。そしてセリーリャスが変わったことを今でさえ信じていないのも事実だ。
「嫌っているわけでは、」
長い間だ。
「なぜ、あなた達は私が酷いことをしていたのに辞めなかったの?」
セリーリャスはヒラソルに背中を向けるように立ち上がり、小道横を流れている小川を見た。小さな小川と言うにはあまりにも小さすぎて、水さえもほとんど見当たらないようなものだが、そこには丸太の短い橋が架けられている。
「トシノさんは、奥様、つまりセリ様のお母様が嫁がれたときにやってきたと聞いております。それ以来ずっとこの家はトシノさんの料理しか口にしていません。そしてセリ様が生まれ、セリ様もトシノさんの料理を好かれておいでで、それを知っているからでしょう。彼女が出て行かないのは。」
「あなたはなぜ?」
「私ですか?」
ヒラソルはかなりの間を取り、そして一言告げた。
「貴方が好きだからです。」
セリーリャスは振り返るとヒラソルは笑顔で立っていた。
「妹だと思っております。」
「ヒラソルさん。」
昼過ぎの斜に構えた陽射しにヒラソルの笑顔はまばゆいほど光っていた。その笑顔をセリーリャスは羨ましいと思うと同時に、そう思われている自分が誇らしげで、くすぐったくて、少しだけ奇妙なものだった。
「いつか、トシノさんにもそう言ってもらえるかしら?」
「思っていますとも。ただ少し、照れ屋なのですわ。」
ヒラソルの言葉に笑いながら二人はのころの散歩を済ませて屋敷に戻った。
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