セリーリャス嬢の監視事項。予知に関して。予言、予感、などを行った場合の状況、言動、症状、それらを出来る限り細かく報告する。
 レノはその日からセリーリャスの家庭教師という名目で住むことになった。
「レノさんは乗馬得意?」
「ええ、エラード様とよく遠出をします。」
「馬って気持ちがいいでしょうね?」
 レノは微笑むだけだった。彼の思考、思想に基づくいっさいが排除され、レノは忠実に家庭教師で居た。
 毎日夕飯前の一時間エラードに今日の報告をする意外は、ずっとセリーリャスの側に居たが、セリーリャスに予知を伺わすような事件も、そしてそう言う動きもない。
 それが続いた一ヶ月後のある夜。セリーリャスは眠っていた。昼間の勉強は変わらず難しいのだけど、さして苦痛ではない。それどころか、レノの教え方は上手で、『初心者』のセリーリャスでもよく解る内容だった。歴史や、この辺りの情勢、などなどいくつもの授業がなされた。
 今日もいつもと変わらずに横になり、そして時間とともに眠りについて暫く、夢の始まりとともに、強い焦燥がセリーリャスを襲ったのだ。
 ヒラソルの切迫した様子にセリーリャスの部屋に行く。そこにはセリーリャスが侍女のフレサに抱き締められていた。
「どうしました?」
 セリーリャスは口をつぐみ首を振るだけだった。

 いつだったか見たあの色とりどりの光がこんどは点滅を始めている。視界が薄ぼんやりと霞むのは、セリーリャスが泣いている所為だと解るのにかなりの時間がかかった。
 手を伸ばして掴もうとして、また、あの落下感を味わったあと、目覚めることなくある風景へと場面は変わった。
 林の中の小川の側。木漏れ日が暖かく降り注いでいる。近くでいい匂いがするからランチを下げているのだろうと察するに、今は昼近くのようだ。
 視界はその風景しか映し出さなかったが、辺りを見て楽しくて微笑んでいたその時、雷光とともに襲ってきた焦燥。
 −また誰かが怪我をする!−
 その瞬間セリーリャスは目覚めた。あの夢の中で感じた悪寒はない。しかしそれを記憶した今、先の危機に対する不安と、それを言えない苦しさに息苦しくなったのだ。
 脂汗がしたたり落ちていく。息はますます上がり、フレサに抱き締めていてもらわないと壊れそうだった。
 レノが水を口に含ませてくれてようやく落ち着いたように深呼吸をした。
「どうしたのです?」
「ちょっと、恐い夢を見たの。ただ、それだけ。」
 レノはセリーリャスのベットに腰掛け、フレサの腕の中のセリーリャスの手を握って、それを優しくさすりながら訊いた。
「どのような夢を?」
 だが、セリーリャスは首を振るだけだ。
「そう言う良からぬ夢は話した方がいいのですよ。そうでないと悪いことが現実となる。」
「そうかしら?」
「と言いますと?」
「だって、あまりにも嫌なことだもの。誰かに話して、そう、誰かに話してそれを聞いた人に不安を与えるわ。」
「だが、それを忠告と受け止めれば、それを聞いた人は防衛するはずですよ。」
 レノの口振りは、まるでセリーリャスの夢が誰かに降り掛かる災いであることを知っているようだった。だが、セリーリャスに、カルド以下の話し合いによってセリーリャスの能力を探っていることは知らされていない。勿論ヒラソルやカルネロもだ。
 カルネロにはこの前のように魔族が襲ってきた場合の、側近警護。と言う話しで折り合っているのだ。聖戦士であった以上そのくらいの優遇はあるという国王の恩義だと言われ、カルネロはかなりの感動で話しを引き受けたのだ。
 セリーリャスは深く深呼吸をし、
「夢よ。ただの。ただの恐い夢。それに、どうしてそんな場所にいるのかなんて、」
 セリーリャスは口を堅くつぶったまま俯いてしまった。

 レノとヒラソルは廊下に出た。レノが呼び出したのだが、ヒラソルはレノの一切の行動に妙な不審を抱いた。なぜこの男はそれほど夢にこだわるのだろうか? 本当に国王陛下が用意したという側近警護者なのだろうか?
「ヒラソル。もし、セリ様が夢の話しをされたなら、私にすべて言ってくれ。」
「なぜです?」
 レノはヒラソルを見下ろした。寝間着の所為で、昼間のきちんと束ねた髪ではなく、緩く垂れた髪がまた、彼女を大人の女性に見せた。
 レノはそのヒラソルをじっと見つめながら「あの怖がりよう、ただごとだと貴方は思うかい? 私は心理学を少しかじっているから言えるのだがね、夢というのはその人のトラウマや、引っかかりをよく見せる場合がある。あなただってこういう夢を見たことはないだろうか? 美味しいものがずらっと並んでいるのに、自分は食べられない。いくら近付こうとして。ああ、貴方はここに使えて長いから無いだろうね。でも私はあるよ。それは貧困と。飢えによる夢だ。今でこそエラード様に拾われて喰いっぷちには困らないけれど、それでも、明日の我が身は解らない。それが恐怖であり、引っかかりでよくそう言う夢を見る。もしその夢の解読が進めば、セリ様の記憶は、」
「だめ! 断固として言うものですか!」
「ヒラソル!」
 レノは部屋に入ろうとするヒラソルの腕を掴み損ねる。
 あの激情、一体どうしたというのだ? レノはこの夜の一件を翌早朝に、エラードに使いを走らせて知らせた。
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