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 豪奢な空気が漂い、あらゆるものが派手やかに乱舞している。社交界とは毎夜決まってこの様なものだ。この空気が重く、苦痛だから、エラードは出席しないが、これもビジネスだ。
 要らぬおべっかと、見栄と、虚栄が売買される幻想的なビジネス。心内を見せないように偽ったもののみが認められる、『まったく変わった場所だ』
 カシスは手にしていた琥珀の水を眺め小さく微笑んだ。いつもなら辺り構わず『淑女』達のダンスの相手を買って出るが、今日ばかりは苦痛だ。
 自分にどういった変化があって「苦痛」だと感じるのか定かではないが、どうも、今日は苦痛すぎる。
「成らぬ姫のことでも思っていらして?」
 この香水の匂いは、アランダノス伯爵嬢セレッサ。
 カシスは柔らかで、いつも通り愛想のいい、血色が良くて、男ぶりの上がる笑みで振り返った。
 白いレースに、薄桃色のリボンをふんだんに織り交ぜ、そして散りばめられた宝石の輝きが、色白の彼女を際だたせ、名家の令嬢らしい笑みを更に魅力的にしていた。
「これはアランダノス嬢。」
「いやね、ずっとお声を掛けてくださるのを待っていたのよ。」
 そう言って扇を少しだけ開き横に倒す。それは『今夜はあなたのもの』という無言の合図。
「でも、無理なようね。どの姫君?」
 セレッサは横に倒した扇をひらひらを振って会場内を見回した。どの顔も見覚えある、常連ばかりだ。
「成らぬ姫。と言うより、不可思議な姫ですよ。私まで掻き乱されてしまう。」
「あら? では、あなたはその姫にご執心ではないの?」
「無いですよ。もしあったならば、ここには出てきませんよ。」
「本当に失礼な方。」
「いいえ、そう言う姫が居ないから、私はあなたのような白蝶を捕まえに毎夜出てくるのですよ。」
「では、お相手なさいな。その掻き乱す姫君のことを忘れて。……、出来ぬ相談?」
「今は、まだ暫く考えていて良さそうかと。」
「では、相談相手になりましょ。あなたが心掻き乱されぬようにする相談を。」
「御意に。」
 カシスはセレッサの手を支え、闇を通り、彼女の家に向かっていった。
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Juvenile Stakes

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