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 (この人は、一体、何を真面目に言っているのだろうか。)
 冷房のよく利いた喫茶店の、道路沿いの、陽の当たる、二人掛けの席に、男女が座っている。
 [喫茶・ガルパゴス]は異国情緒あふれる店内に、等身大の象ガメの置物やら、ガルパゴスの民芸品が所狭しと飾られている。
 店主はれっきとした日本人だが、今の[マイ・ブ−ム]はガラパゴスらしい。去年は、アフリカだったから…。
 コ−ヒ−の沸き立つ音と、それにつられて薫り立つ匂いが、お茶の書き入れ時を示すように、客が入ってきた。
 ここの人気は、シフォン・ケ−キだ。店主のカミさんが趣味で作る、偉く不格好だが、大きいそれが受けている。
 店主の娘で、今年中学に入ったばかりだと言っていた娘が、入ってきた新しい客に水を運びに行く。
 やっとの思いで、彼女・月野 マリアは首を傾げた。
 目の前に座る、体躯のいい青年。マリアは誰だか知らない。
 マリアは、日課でもあるこの店に来て、優雅にお茶をしようと座った途端、この青年がどかっと座ってきた。
 昼の書き入れ時を過ぎ、客は、マリアと彼氏か居ないのに、彼はそこに座り、真顔で言った。
「好きだ。つき合おう。何なら、結婚をしよう。」
 それを言われてどのくらい経ったか定かではない、「正味、五分]あるいは[十分]ぐらいなもんであろう。
 マリアは固まり、声すら出ないで、やっと、やっとの思いで、首を傾け、[疑問を持っている]と合図をした。
「一目会ったその日から、恋の花咲くこともある。俺は、お前に惚れた。」
 マリアは青年の顔をまじまじ見ていた。一度でも逢ったなら、覚えていそうなほど、細い流し目の得意そうな目、と、銀斑の眼鏡。マリアの好きな少し分厚めの唇。だが、いくら記憶のストックを降りくっても、[覚えてない! ]と[記憶にありません]が交互に出てくる。
 だからと言って、[知らない人に。]と断るのもどうか。と思っているマリアの前に、やっと、沸き立てのコ−ヒ−が運ばれてきた。
 マリアはそのコップを持ち、一口含んだ。熱くて、舌を火傷しそうだが、それ以上の薫りと、味が舌の上をすすって通る。
 マリアはコップを置き、にこやかに言った。





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