2 Easier said than done(1/3)
 水の都。それはセイラたちが居る中央都から遙か下って、東に位置する場所にある。水が湛え続ける命豊かな都で、そこを治めている水の守がサプレスだ。
 サプレスの仕事はもっぱら、自都と中央都、並びに各諸国に水を分け与えることが基本だ。一日を水の部屋と呼ばれる、水が生み出される部屋にこもり、その動向を監視し、迂闊にもそれが乱れ狂うならば、命を懸けた祈祷でそれを正常化する。そして何代目かの、元サプレスの力は遙かサプレスの創設者よりも力は凄いと評されていて、彼がサプレスに即位してから水は穏やかに涸れもせず荒れもせず湛え続けていた。
 サプレスが、参謀であり、側近であり、また最愛の弟でもあるヴァンを中央都に送ったのは、それなりの事項があったからだ。
 中央都に住み、常に先を見通していた、すでにその時百五十をすぎた先読みの婆の予言によれば(十年ほど前に他界した)、「すでに出し完全者の神子、時十七の七の月巡りに神子として目覚め、陰り見え、闇貫く術なり。」の予言をした。
 その時、予言に立ち会ったのが、サプレスに就任して中堅となってきた(即位年齢は十歳だった)彼と、中央都に住む天帝。そしてサプレスと同じく中央都を守るべきある四都の、北のグロイド。西のアクティヴァント。南のセリエス。と、神官であるカルヴィナの五人だった。

 予言の兆候は、先読みの婆が死んだ辺りから兆しを見せてきていた。四都の外れ、冥府の都があるとされる地の果て辺りが、その闇を少しずつ広げているのだ。
 闇はどこまでも闇で、そこから帰ってきた者もなければ、そこにいる者の存在も知らず。それがいったい何であるかを知らないがため、闇の存在を大きくし、それを阻止する術が無く、ただ、今はそれの同行を見守るしかなかったのだ。
 そして先読みの婆は言った「すでに出し完全者の神子、時十七の七の月巡りに神子として目覚め、陰り見え、闇貫く術なり。」
 その予言通り、七の月巡りが近づいてきた頃から、サプレスの水の部屋に闇の力がちらほらと見えてきた。水がかすかに濁っている辺りがある。水が滞りだしたところがある。など、その兆候を示す者が増えてきたのだ。
 サプレスはヴァンを中央都にいる天帝に使いを出し、先読みの婆が言った神子の復活を促したのだ。
 サプレスは水の部屋で、水の生まれる柱を見ていた。辺りは遡る水柱やら、水の玉が浮遊した一種異様な空間の中で、深海の色で染めたローブを着たサプレスは椅子に座っていた。辺りは水の生まれる音しか無く、何の邪魔もなく水が生まれている。でも、時折、不気味な咆哮とともに汚れた水が昇り上がったり、水の床に音を立てて落ちる。
「手放したくはないだろうな。」
 サプレスの言葉に同調するように、汚れた水が天井を張って、サプレスの目の前に降り落ちた。

 神子はあくまで、一人の少女として生きてきた。限りなく、それであることを悟られずに。闇の力が及ばないように、保護の力を持つカルヴィナの側で、琥珀色の少女は十七になった。
 サプレスは深くため息をついた。七の月巡りはあと七夜と無いうちに来る。
 カルヴィナは神官の部屋として与えられた部屋の、机の前に立っていた。両手を机につき、深く息をついた。いくつもの本を読んだ。出来れば、あの子にそんな力がないことを望み、ある時は、その力の半分でも、自分に移行し、その役目の代役を出来ることを、しかし、本は何も与えてくれないばかりか、そんな史実も存在はしていなかった。
 いくら過去を巡ってもないこの思いを、カルヴィナはセイラが十七になった月に感じ始めていた。
 セイラにそんな力がないと思えばこそ、無茶だと言えることが、確かに、セイラにはその力が存在しているのだ。まだ、自分では気づいていないだけで、セイラは完全者、《マイスター》の力を持って生まれている。
 《マイスター》は力ある者のその力を増幅させる者。たとえば、天帝の日の力である大らかで、体制を取る力の側に居れば、天帝の力は増幅し、世界は太平に導かれ続ける。仮に、まだ見ぬ邪心とされる冥府の《悪》の側に居れば、悪の力は増幅し、世界は闇の中に沈むであろう。
 それを避けるために、保護と、守護の力を持ったカルヴィナがセイラの側に居る役目を仰せつかった。カルヴィナの家は代々が神主の家柄だ。セイラの身を守るために、かんざし屋の家を建てたのだ。そして隣の【ダチョウの首輪】の女将も、セイラの護衛婦なのだ。
 そうして七巡りの月を迎える。七巡りの月は秋の豊作を願う月で、あちらこちらで祭りが開かれる。

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