3)Where there's a will, there's a way.(1/5)
 ロットバルトとカルヴィナはセイラたちの居ないのをようやく夕方になって知った。というのも、その日は元老五人集、いわば、中央都のご意見番たちが会議を開き、一刻も早くセイラの旅立ちを促せる二人と、もう少しの猶予をという二人と、中立一人で、話はいつまでも平行線をたどっていた。それの相手をして、カルヴィナの元に連絡が遅くになってしまったのだ。
 カルヴィナは歯を食いしばりロットバルトを呼び寄せた。
「一人で何が出来る?」
「ヴァン様もパトックもおります。」
 というロットバルトにカルヴィナは二人の武勇振りを褒めてはいたが、否、実際彼らの腕は凄いと賞賛さえしている。しかし、相手は、大事な【妹】だ。カルヴィナは自分がついていなくてはいけないと、言いたげに口をつぐんだ。
「追いましょう。そして、お戻しし、一緒に行くように。」
 ロットバルトの言葉は、現状の中では最善の言葉だった。神官であるカルヴィナが、そうそう城を離れることは出来ないのだ。
 ロットバルトは、宵も深まり、空に瞬く星がいっそうの光を強めた頃、追うように出立した。

「ヴァンのことだ、ひとまずサプレスの都に帰るだろう。だから、東に向かってくれ。」
 カルヴィナの言葉通り、ロットバルトは馬を駆けさせた。馬を駆けさせ続ければ、二日とかからない。カシオスの村に着いたのも、走り続けて朝を迎えた頃だった。
 宿の前を失速して通り過ぎて行ったなど、ロットバルトも、その宿で寝ているヴァンたちも気づかなかった。

「これは、夢か?」
「そう夢。でも、実際に起こる夢。」
「誰だ!」
 カルヴィナは塗り込めた闇の中で叫ぶ。浮遊しているわけでもなく、漂っているわけでもなく、地に着いているわけでもなく、ただ、黒の中に存在している我が身だけが、はっきりと姿を見せている。
 カルヴィナの言葉に返事をしたのは、女の声のようだった。ゆっくりとした口調で、静かな物言い。
「私の名は、メティス。」
「魔族か?」

「そう言う言い方は好きではない。こちらの考えで行けば、そちらは悪であり、お前たちは魔族だ。」
 カルヴィナは姿無き声に言葉を掬い取られ、軽く唸る。
「お前に夢を見せてやろう。未来、必ず来る夢だ。」
 メティスの声のあと、辺りの黒が一瞬にして水の中になった。カルヴィナは海を見たことがない。しかし、ここは深海であろう。そして、その底にそびえ立っているのが、本来の水の都の城。
「お前の大事なセイラはあの中に居る。」
 カルヴィナは声に押されるようにして城の中へと入っていく。兵の一人も居ない。サプレスの力も感じられない。それが夢だから、そう思いながら、カルヴィナは前に進む。
「水の部屋。」
 メティスの声にカルヴィナは同調して繰り返す。壁や柱が全て水で出来ている。軽く押し込めばその中に手は入り、その手を濡らす。水の音がする中で、カルヴィナの衣擦れがした。
「ヴァン?」
 セイラの声だ。中央ほどに垂れかかった帳、カルヴィナはその帳を開ける。
「にい様?」

 セイラの声だ。そしてセイラだ。でも、その足は魚になっている。
「セイラ、それは。」
「旅になど行っても無理。私は、ヴァンとここで暮らそうと思っているの。ヴァンがそうしようと言ってくれたの。優しいのよ、ヴァンは。」
 カルヴィナは帳を引きちぎる。怒りで我を忘れ、引きちぎった帳で、セイラの首を絞める。ぐったりとなるセイラに、カルヴィナは手を伸ばす。
「いいのよ、これは夢だもの。あなたはこの夢の未来を信じる?」
もとの黒い世界だ。そして今度は美しい女が立っていた。薄い茶色の長い髪は床にまで届き、灰色の目がじっとカルヴィナを見ている。
「どうすればいい?」
「簡単よ、セイラをヴァンから遠ざけるの。ヴァンを殺さなきゃ。セイラがヴァンを好きだと気づく前に。魔族の所為にして。」
 メティスはそう言って首を傾げた。
 カルヴィナは項垂れ、もう一度あの情景を見た。そして、握った手に力を込めて叫ぶ
「ヴァン!」顔を上げたカルヴィナの目は、紅蓮色に染まっていた。

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