Fraternite[フラテルニテ]-フランス語で兄弟愛を示す単語。その他友愛だの、博愛だのという意味もある。
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「ばぁか。」
 あまりにも素っ気なく彼女は言って、目の前に座った男を見返した。
 男は食事中の口を止めて彼女を見上げた。
 長い眉に、綺麗な茶色を帯びた二重の目。鼻が少し小さくて団子でなければ、かなり美人の部類だが、それでも、彼女は可愛く、その性格さえなければ、かなりいい線のいった子だ。
 その性格を彼は熟知しすぎている。彼らはここですでに十年もの間一緒に住んでいた。きっと、よそから見れば大変変わった生活を送っているに違いなかったが、当の二人は、そんなことお構いなしだった。
 他人の噂も何日で、彼らを初めて知った人が、数日彼らについて疎ましい限りの暴言を吐くだけで、それ以降は至って普通の、至って、平和な日常を送っている。
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 まず、紹介しておこう。
 彼女の名前は、鈴木 和音。今年高校二年になった女子高生だ。身長、体重とも平均的で、勉強もまずまずで、体育が好きだ。髪はまっすぐに長く、大きな茶色をさした目が人を引き寄せる。
 で、彼は、山田 伸一。今年二十歳になった大学生だ。専攻は、一応英文科。身長は今時の平均、百八十を少し越し、そのくせ、体重は平均値よりは少ない方だろう。勉強など二、三の次で、とにかく女好き。特に、訳も解らない馬鹿女ほど好きだったりする。ようはただの女たらしなだけだ。
 で、その和音に「馬鹿」と言われた伸一は、すっと視線を皿の上の半熟目玉焼きに落とし、くくくと笑ったあと、しくしくと鼻を鳴らし、「でもよ、そいつ、男居ないのって言ったんだぞ。」
「合コンでしょ? 嘘に決まってるじゃない。第一、そんな場所に行って、男居ますって言ったら、白けるでしょう? 普通で考えな。それと、もう少し妥協するんだね。あんま馬鹿女ばっかりからかってると、あんたまで馬鹿になるよ、すでに手遅れだろうけど。」
 和音は立ち上がり、食べ終わった自分の皿を流しに置くと、「じゃ、先行くから、後片付けしといてね。お兄ちゃん。」と出ていった。
 一人居間に放置された伸一は文句を言いながらも、和音が作ってくれた朝食を食べ続けた。
 そう、彼らは兄妹なのだ。ただ、両親の再婚に伴い付き合わされた全くの赤の他人。一応は兄妹だから、一緒に居るが、親が不良でなければ、多分、普通の兄妹として育っただろう。
 親? 親は二人して趣味のアルピニストしに山に行っている。しかも、ビザの取得時のみに帰国するという有様だ。
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 和音は靴を履いてからからと鳴る玄関を開け、寒々しい風の吹いている中へと出た。
 赤いマフラーを口元まで引き上げ、鞄の握りをしっかり握って、和音は歩き出した。通い慣れた平坦で、継ぎ目だらけの舗装道は、相変わらず歩きにくい。少しの段差でも足を取られ、捻挫しかねない。よくこれで公共事業だと言える。和音は毎朝同じ事を思いながら、さしてそれを口外するでもなく学校へと歩いた。
 高校は、二年前に伸一が卒業した学校で、別にそれが理由で入学したわけではなかったが、そこ以外に学校を知らなかったのだ。
 歩いて十五分ほどで学校に着いた。自転車通学は許されているが、和音は短いスカートのままでそれに跨りたいとも思えず、歩いて学校に通っているのだ。それに、登校下校時の駐輪場の混雑を思えば、歩いている方が随分と楽なのだ。
 玄関で靴を履き替えると、うっすらと化粧を施した同級生が和音に声をかけてきた。まぁ、それが普通で、和音のすっぴんが珍しいのだが、学生らしくないと和音は思いながら、その同級生に同様な挨拶を返す。
 教室に入ると、相変わらずなクラスメイト達が話をしている。女子はおしゃれと男子の話。男子は、スポーツと女子の話。
 和音はそのどちらにも入らずに席に着いた。
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「おっす。」
 和音の隣りに、阿部 聖斗が座り声をかけてきた。
 和音は聖斗の方を見て頷いた。
「伸一、朝帰りしただろ?」
 聖斗の言葉に和音は大きな欠伸を一つするだけだった。
「全く、好きだよな、あの人も。」
 聖斗は構わず続ける。
「ところで、今日の帰り、」
「パス。お呼びじゃないよ。」
 和音はそう言って机に俯せた。聖斗は口をとがらせて、今日【も】断られたと不服そうな顔をした。
 和音はその名にふさわしくなく、弓道部に所属している。弓道部では、否、他の部でもそうだが、後輩の【女】によく持てる。髪を伸ばしているのは、そうした物たちから【女】であると誇示しているのだが、逆効果らしく、そのギャップがいいらしかった。
 練習用の袴に着替え、弓を持って部室を出ると、サッカー部の聖斗が外でリフティングをしていた。
「少しは上達したようじゃない。見た目。」
 和音はそう言って道場に向かう。すっと伸びた背筋に、束ね揃った髪。黙っていればかなりの美人だ。でも、時折出す「何やってんだ?」と言う男言葉に、聖斗は魅力を感じる。ああいう男っていいよなぁ。
 聖斗は人知れず【ゲイ】である。男にしか興味がない。しかし、和音だけは別だ。何故だか解らないが、別なのだ。
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 出会いが強烈だったからかも知れない。付き合っていた十コも上の、勿論男だが。その人に振られて、しょげかえって、今にも自殺をしようと思っていたとき、突然路地から降って沸いた【少年】その時はそう思った。野球帽をかぶり、ジャンパーに両手を突っ込んでいて、結構鋭い視線をしていたからだ。
 思わず、聖斗は「なんと言うことだ! これは運命だ!」それは、閃きにも似ていたし、それは凄まじい出会いでもあった。し、衝撃でもあったのだ。でも、そんな目で見ている聖斗に、和音は退屈そうに言った。
「ゲイが女に興味示しやがった。」
 その言葉を何度も読み込み、理解し、そして制御不能になりながら、聖斗は和音を見上げた。和音はすっと帽子を除け、長い髪を出した。
「かなり、邪魔。どけ。」
 そう言って座りこくって、長い足を放りっぱなしの聖斗は足を折り畳んだ。その前を和音はスカートで通り過ぎた。
 よく見れば、フード付きのピンクのジャンパーで、チェックのスカートを履いている。野球帽なのがおかしいだけで、別に普通の女の子だ。
「俺が、女の子を?」
 聖斗はその日から、和音を捜していたし、同じ学校になったときは飛び跳ねて喜んだ。 和音は適当に人付き合いもよく、格別一人で居るわけではないが、別に誰かと一緒でもない。
 道場に来ると、後輩がしつらえ終わった整備された道場の板間に正座をする。背筋を伸ばし、瞑想に耽る。そして暫くしてから、射始めるのだ。
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 で、伸一は。と言うと。朝食後暫く、二時間ほど眠って、午後の授業に出かけていった。英文科でも、落第生ばかりのクラスに入り、大欠伸をしながら椅子に座ると、連れの数人がやってくる。
「お前振られたんだってな。」
「うるせぇ。」
 伸一の親友で、高校からの連れである、真壁 俊也が大笑いをしながら横に座ってきた。
「だから言ったんだ、あいつには男が居るって。無理だったろ?」
 むっとする伸一に俊也は笑う。
「それよりも、今夜のコンパだ!」
 伸一は顔はいい。頭は悪いが、別に生活に支障は来さないし、それほど重要なアイテムでもない。従って、悪癖である【軟派】を止めさえすれば、女はよってくるだろう。女を引っかけてすぐ、他の女を軟派していれば、振られると言うものだ。
「一種の病気だな。」
 俊也が吐き捨てる。大学の授業など、さっぱり解らない。教授の話す言葉も、いい子守歌でしかないし、伸一にとってしてみれば、退屈な時間なのだ。
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 伸一が教室を出ると、この寒い時期に、ノースリーブのフェークファーを着た瀬戸 良佳が立っていた。
 伸一は良佳のその身体を一応に見てから、「なぁ、瀬戸ぅ。今日暇か?」と口説き始める。
 良佳も伸一に負けず劣らず男たらしの異名を持つ。しかも、かなり貢がせ、そのくせあっさりと振るという。しかし、その身体は蜜の味だ。大きくせり上がった胸と、やたら浮き出ている鎖骨。それらは全て「きてc」と言っている。(言ってないような気がするが) 二人は連れだって学校をあとにし、和音がまだ帰ってきていない家で、ひとしきりの逢瀬を楽しむ。それは日常で、それは毎日のことで、別に変わったことではない。
 和音が鍵を開けて玄関を入ると、そこには下着がくしゃっと捨ててある。
 それだから、和音は部活に入っているのだ。
 和音はため息をこぼし、居間に入ると、伸一が煙草を吹かして、背もたれにもたれていた。
「風呂?」
「ああ。」
 素っ気ないやりとりのあと、和音は鞄を食卓の椅子に置き、台所に入って、冷蔵庫を開ける。
「適当でいい? 生理前で買い物する気無い。」
「ああ。」
 伸一がそう答えると、和音は冷蔵庫から食事になりそうな食材を取り出して、作り始める。
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 和音が炒め始めた頃、良佳が風呂から出てきた。さっとシャワーを流すだけでは寒かったのか、しっかり暖まったらしく、全身を紅色させて居間に入ってきた。しかも、タオルで身体をくるんだだけの格好だ。
「な!」
 絶句する良佳の方を和音はちらっと見て、「食べてく?」と無愛想に聞く。
「誰。」
「妹。」伸一が答える。「知らなかった?」
「え? 」
 良佳は和音と伸一を交互で見る。
「似て、無いじゃない。」
「ああ、血なんか一滴と一緒じゃない。」
「で? 兄妹?」
「ああ。再婚した母親の連れ子。」
「再婚した父親の連れ子。」
 伸一と和音が言い終わると良佳の顔は見る見る、かなりはっきりと見る見る不機嫌になっていった。
「それって、赤の他人じゃないの? うまい言い訳ね。だって、山田君の親は山に居るんでしょ? 」
 伸一は最後の煙を吐き出し、煙草をねじ消して良佳を見上げる。
「だから?」
「おかしいじゃない。」
「何で?」
 かならず決まってこういう風が吹く。良佳は初めて家に来たらしいと和音はそこで知る。いちいち伸一の相手を覚えているわけないのだ。
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 食事を作り終えた和音が食卓に並べると、伸一が椅子に座る。
「続きはあとだ。先に飯食おう。」
 伸一の言葉に、良佳はあからさまにむっとして、「私、そんな悪趣味な体勢は嫌いよ。帰る。」
 侮辱だわ! と叫ばないのが低俗らしい。そう言う言葉を知らないんだね。和音はそう思いながら食べ始めた。伸一は仕方なさそうに玄関まで見送りに行く。
 伸一の興味は、セックスをする段階までで、それさえ済めば、付き合うだのと言うしち面倒なことには興味ないのだ。
 良佳のヒステリックな捨て台詞が響いたあとで、げんなりとした伸一が居間に顔を出し、和音の前に座った。
「酷い女だね。よくあんな女と付き合える。」
「奇特な性分なんだ。」
「奇特と言うか、物好きというか、こと好きというか。」
 和音はそう言って目の前で食べ始めた伸一を見た。
 伸一は鼻で笑い、食べる。
 この十年、二人でなんとか過ごしてきただけ合って、和音の食事の味は伸一の好みだし、何を言わずとも、手を伸ばせば届くところに何かを置いてくれる。例えば新聞だったり、例えば、コーヒーだったりする。
 そう言えば、和音が生理になったときのことを伸一はふとぼんやり思いだした。食事時というのに。と思いながらも、その時の慌てた自分が、今までになくみっともなかった。
 伸一が中学に上がったばっかりの時だったから、まだそんな知識もあやふやで、いい加減な物だったし、実際、これから先にもあとにも見られるような光景じゃない。
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 学校から帰ってきた伸一の前に、居間で和音は寝転がっていた。足で和音を転がして「風邪引くぞ。」と声をかけると、和音は低く唸って腹を押さえ、伸一を見上げた。
 青白い顔をした和音。息苦しそうに腹を押さえている。
「ど、どうしたんだよ!」
と叫んでしゃがむと、いやに鉄臭くて顔をしかめた。それすら今も覚えている。
「ただ、生理になっただけ。ナプキン、買ってきてよ。これじゃぁ、いけないよ。」
 と言われ、唖然としていながらも、和音をよく観察すれば、ズボンが血で汚れている。その異様な光景に、小学五年の和音ははきはきと手際よく伸一を動かした。中学生でスーパーに生理用品を買いに行った伸一が、どれほどの恥ずかしさで顔を赤くしたかなど、今ではすでに忘れたが、否、忘れようと務めているから、あえて思いださないけども、かなり、恥ずかしかった。好奇の目にさらされて、家に帰って、和音が着替えている間、居間の板間にぬめった血を雑巾で拭いた。
 何とかして、早くそれを片付けてやった方が、和音のためだと思ったからだ。
 実際、和音はそれを非常にありがたり、それまで無口だった中が徐々に会話が増えた。様な気がする。
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 伸一は顔をしかめ、唇に指を持っていく。そして器用に口を動かしてから、魚の骨をついっと出す。
「ところで、今度の土曜日暇?」
 和音が急に口を切った。伸一は和音を見下ろす。やはり血がつながってないだけ合って、和音は母親似で、背が低い。
「なんだ?」
 無愛想に返事をすると、和音が唸るように、「三者面談という奴がある。家には親が居ないと言ったら、お兄ちゃんを呼べときた。どうする?」
「どうするって、行かなきゃいけないんだろ? そう言うの。」
「あんたはどうしてたのさ。」
「俺? 俺は……。あの人を呼んだ。」
 和音は黙って伸一を見返した。伸一の女好きは一方では母親の愛情不足だと和音は思っている。ほど、伸一を捨てて男と駆け落ちをした母親を、伸一は鼻で笑い、けなし、でも、忘れられずにいるのだ。そして、伸一が言う【あの人】は他でもなく、その母親だ。
「そうか。家には居ないんだよなぁ。死んだし。」
 和音がそう言って、ふう、とため息をこぼす。
「有り難くないよね。家にとってはさ。」
 和音の言葉に伸一は同感の唸りを出す。
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「とりあえず行く。先生に言っとけ。」
 和音は頷き、食器を片付ける。
 当番は決まってない。あの日、和音が生理が始まった時から決まったようなものだ。和音が指示を出す。伸一はそれに従う。
「片付けお願いね。」
 和音はそう言って部屋に駆け上がって、すぐにトイレへと降りてきた。
「始まったな。厄介なものだ。」
 伸一は吐き捨てるように言って、最後のご飯を食べ終わる。
 伸一が台所を片付けたあと、和音がトイレから出てきた。
「先に風呂はいるぞ。」
「どうぞ。」
「薬のんどけよ。」
 和音は適当に唸って二階に上がった。
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 伸一は一階の自室に入る。着替えを取り出し、ふとベットに目が映る。さっき、良佳と逢瀬を楽しんだベットがやけに白地らしくくしゃくしゃに存在している。
 別に誰でもいいんだが、何で、こんなに誰かを求めるのか、伸一にも解らないときがある。
 そう言えば、伸一は時計を見上げる。時計はすでに九時を回ろうとしている。
「ははは、合コンはずしたなぁ。」
 伸一はそう言って風呂場へと向かう。その間に電話が鳴り、受話器を上げると、俊也の声がした。
「楽しんだか?」
「あ? まぁ。で、そっちは?」
「別に、もう解散した。お堅くってな。」
「そうか。」
 他愛のない会話。女の姿を詳しく話す俊也の声。それを想像して餌にしろとでも言うのか? と不服に思いながら、とりあえず受話器を置くと、風呂場へと向かった。
 風呂場に並べられたシャンプー。女用のシャンプーは言わずと知れた和音のだ。タオルも二つかけている。
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 土曜日。伸一はとりあえずかしこまった服を着て学校を訪ねた二年ぶりの校舎。代わり映えのしない校碑の前を通りすぎると、玄関で和音が立っていた。
「ほぅ、本気で来たんだ。」
 和音の言葉に来客用のスリッパに履き替えて、一緒に教室に向かう。
 教師は今年来たばかりの教師で、伸一には面識はなかった。
「似てないんだね。」
 三十半ばの教師の第一声に、和音と伸一は同時に言った。
「世の中、みんなが自分と同じ境遇だと思わないでくださいよ。」
 教師は黙って、家庭内申書に目を通す。親の再婚で兄妹になっている。そう備考欄に書かれているのを見て、教師は愛想笑いをする。
 暫く気むずかしい空気が流れたあとで、「鈴木は別にこれと言って注意する点は無いし、勉強もそこそこだし、部活もよくやっている。だが、一つ、文句を言えば、もっと女らしくした方がいいと思う。そんなんだから、女に持てるんだぞ。」
 冗談を言った教師に頭を下げ、二人は学校を出た。
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「女に持てるのか?」
「それなりに。」
「お前レズか?」
 和音は立ち止まってまで、伸一を見上げる。
「ばぁか。」
 和音は歩き出すと、ふいに腕を掴まれて振り返ると、昨日の良佳が腕を捕まえていた。更に伸一を振り返ると、五人の男達に囲まれていた。
「一緒に来て。」
 そう言って二人は人気の少ない、河川敷の橋の下に連れて行かれた。
 あまりに安易な場所に和音は呆れて良佳の方を見た。くすくす笑い始めた良佳に会わすように、五人の男は、二人が伸一の腕を押さえ、三人が交代で伸一に殴る蹴るの暴行を加え始めた。
 和音は黙ってその様子を直視していた。
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「さぞ苦しいでしょ?」
 良佳の言葉に和音は静かに良佳の方を見て、「別に。」と言った。
「何で?」
「なんでって、別に、お兄ちゃんがどうなろうとかまやしないもの。」
 和音の言葉に良佳は和音の頬を叩いた。小気味いい音が響き、伸一が歯を食いしばって顔を上げた。それを見て男達が顔面に脛をぶつけた。
 すごく痛む音を出す伸一を黙ってみていたが、その横で、「いい気味だわ。妹だとかって嘘を言って、私に恥を掻かせた罰よ。だいたい妹のはず無いじゃない似てないんだから。」と言った良佳に徐々に不機嫌になる和音。
 最後に良佳が、「妹? 本当は恋人か、幼妻じゃないの?」に和音は完全にキレた。
 キレたという表現は妥当ではないが、でももし、理性の糸が張ってあったなら、ぷつんと音を立てて切れただろう。
「いい加減にしろよ。似て無いだの、なんだのと、他人が言う事じゃないだろ? 兄貴は兄貴で、私たちは兄妹なんだ。血のつながってないね。」
「じゃぁ、その赤の他人の兄妹で、近親相関者?」
 良佳の笑い声に和音は迷わず良佳の胸ぐらを掴むと、軽々と良佳を持ち上げた。
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「別に、兄貴が怪我しようと、そんなことはどうでもいい。でも私たち兄弟の仲を悪く言うのは解せない。悪かったね、私たちは血がつながってないからね、血のつながりのある兄妹よりも、兄妹らしい結束があるんだ。もう一度言う。私たちは兄妹だ。解ったら、あいつらをどっかに行かせな。じゃないと、このまま川にどぼんだ。」
「いやよ! 放しなさいよ!」
 良佳を片手で浮き上がらせている和音に恐れをなして男達は走り消えたが、和音は良佳を下ろさなかった。
「行ったじゃない、放してよ。」
「あんたは命令してない。あいつらは、私が怖かっただけだ。だから、約束通りどぼんだ。」 和音は良佳を下ろし、強引に川に引っ張っていく、良佳が何度手の甲に爪を立てようと、顔をひっぱたこうと、和音は動じず、川まで来て良佳をくるっと放った。良佳は横倒しに、まるで足を払って倒れる柔道選手のように足をすくわれたまま、川に落ちた。
「血がつながって無かろうと、私たちは兄妹だ。いい加減覚えろ、馬鹿女!」
 和音はそう言い捨てて伸一の側まで歩く。口を切ったらしく、顔を腫らした伸一が顔を上げる。
「無様だね。もう少し護身術でも習ったら?」
 和音はそう言うと、河川敷の土手を上った。
「全く、和音を怒らすと、親でも押さえきれないんだぞ。どうすんだよ、今晩飯無かったら。」
 伸一は文句を言いながら、頬をさすりながら帰っていった。
 良佳は濁った川に全身を浸され、そこで泣くしかなかった。侮辱で、腹立たしいが、どうしようもないのだ。勝てないだろう、あんな女には。
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 伸一と和音は縁側に腰掛けていた。ススキを立てて月見をするには冷え冷えとする夜だったが、二人は欠けた月を見上げていた。
「いい加減、まともな女を相手しろよ。ややこしい。」
「まともな女が相手するわけないだろ?」
「そう言うのを自業自得と言うんだよ。とにかく、これで何度目だ?」
「さぁ、片手じゃ足りんかな?」
「阿呆、両手、両足足しても足らんわ!」
「にしても、あの女の乳はもったいなかったなぁ。」
「じゃぁ、しゃぶってくれば?」
 伸一は何も言わず空に向けて煙を吐き出した。
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2000.11.14

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