百鬼夜行
鈴鹿が起きて居間に行くと、保が囲炉裏に炭をくべているところだった。辺りには婆様も麻智も居ない。 「二人は?」 「小蘭様はお友達と出て行かれました。麻智様は、」 「こ、小蘭?」 「はい。あ、婆様です。」 「小蘭てな前なんだ。随分可愛い名前。でも、中国っぽいなぁ。で、あいつはどこに?」 「学校でございますよ。」 「え? あたしには休みを取らせておいて、あいつ、学校に行ったの?」 「そうですね、鈴鹿様も学校に行かれますよね。麻智様が帰ってきたならば、お話し合いになられては如何かと。」 「でも、学校通うのに半日かかるのはねぇ。」 「転校、なされたら?」 「簡単に言うなぁ。でも、もし通うなら、そうするしかないよね。」 鈴鹿は保が用意した朝食を食べ始めた。その様子を保はじっと見ていた。 「何? あ、もしかしてこれ保さんの?」 「いえ、私のはあそこに。」 と指さす台所には鳥のガラが三個乗っていた。 「バリバリ?」 「はい。美味しゅうございますよ。」 「遠慮する。じゃぁ、何で見てるの?」 保は言いにくそうに俯いて、意を決して口を開いた。 「私は鬼です。その用意したものを食べるのに、抵抗は、無いのですか?」 「無い。少なくても保さんにはないなぁ。お婆ちゃん、……。あたしも婆様って呼ぼうっと。婆様や、あいつが盛ったものなら、何かありそうって思う。鬼って言っても、保さんてそう言う感じしないし。」 「脱ぎましょうか?」 「否、結構。それにはよばない。本当に。」 鈴鹿はそう断って保と失笑しあう。 鈴鹿は洗濯物が干された庭に面した縁側に座っていた。足を投げ出し、空を仰いでいると、そこは陽が容易にあたる絶好の日向だった。 「いい天気だし、洗濯物もよく乾く。で、今私は一人だ。一人で居れると言うことは、昼間って言うのは、鬼は出ないってことかな? 保さんは別として。」 鈴鹿は誰に言うでもなくそう言って、ぼうっとしながら、考えるところがあって立ち上がった。 夕方。麻智が家に帰ると、婆様が一人で夕飯の用意をしていた。 「保は?」 「鈴鹿と出掛けた。」 「あいつと? どこへ?」 「聞いとらん。」 麻智はその答えに反感の顔をして部屋に行く。鞄を机に置き、制服から私服に着替える。着替え終わると、庭に出て瞑想と、妖力の修行に取りかかった。 電話が鳴り、婆様が受話器を取った。 「おお、鈴鹿か。何? あと二時間? えらいかかるの。まぁ、いい。飯は作っておる。ああ、気を付けて。」 「なんだって?」 修行を中断させて麻智が近付くと、婆様は、これまたどこから取り出すのかはりせんで頭を打ち、「さっさと修行をせぬか。」と庭に追い返す。 「ったく、どこに居るのかって聞いただけじゃないか。」 「そう言えば、聞くのを忘れた。」 婆様はそう言って土間に消えた。 麻智はむっとしながら修行のため錫杖を振り回した。 「まったく、心が乱れきっておるわ。」 と言いながらもほくそ笑み、格子窓の戸を透かして庭の麻智を見る。 婆様が鈴鹿の居場所を教えなのは態とであって、計算でもあった。それはおいおい話すとして、鈴鹿の方だが。鈴鹿は今高速の上に居た。 本当なら夜するはずだったのだが、両親が出掛けていたので、その間に済ませたのだ。 「助かった。」 「いいのですか?」 「いいの、いいの。あそこに何か残していたら、もし何かあって、それは、私自身の存在を消さなきゃ行けないようなことよ。例えば、命を狙われ、実際今でもそうなんだろうけど、でもそれ以上に、親が人質になってもらいたくはないでしょ。だから、よかったのよ。寮に入って学校に通う。しかもそれは有名な学校だって言ったら、すっかり信じちゃったし。」 「いえ、麻智様が通われている学校は、有数な進学校ですし、日本、否、アメリカでも有名らしいです。」 「う、そぅ。あたし、そこに通うの?」 保はくすくす笑った。鈴鹿はその横で、学校の凄さにげんなりしていたのだった。 そう、鈴鹿は実家に帰って洗いざらいの荷物を持ち出していたのだった。考えは先程鈴鹿が言ったとおり、親を人質となるやも知れぬ状況下に置きたくないのと、私物が全くない状態で、多分、力が無くなるまで居続けた方が良かろうと思われる庵に居るのは耐え難かったのだった。それにもし、独り立ちできるようになったとしても、やはり家には行けない。だから、持ち出したのだ。 「あいつに頼んで、記憶まで消そうかと思ったけど、あいつの顔見るとさ、そう言うのいけないことなんだって考えちゃいそうでね。」 「麻智様はお優しいお方ですから。」 「優しいかどうかは知らないけどね。そう言う顔しそうだから。」 車は夜七時に到着した。エンジンが切れたのと同時ぐらいに麻智が玄関の戸を開けてでてきた。 「どこ行ってた!」 「どこって、ちゃんと手紙書いて行ったでしょ? ほら。」 鈴鹿は柱の解りやすい場所に貼って行った紙を指さした。確かに麻智にも見える。でも、今まであそこには何もなかった。麻智は婆様を見た。もう、婆様以外妖力で消したとしか考えられないのだ。でも、それを言えば、婆様の力が出ていることを探れなかったと言って、修行追加を命じられるに決まっているのだ。麻智は首を垂れて中に入る。 「鈴鹿様、お荷物は明日の昼にいたしましょう。」 「そうね、出てこられるのも困るし。ああ、お腹空いた。」 鈴鹿は一人膳の前に座った。 |
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