夕飯。鈴鹿は嫌な視線を背中に感じながら婆様と夕飯の仕度をしていた。 出来上がり、善に乗せて運んだが、父親は頑として食べようとはしなかった。 「いやだね、いい大人になって、ひねくれるって言うのは。」 「そう言う人の子供ですから。」 父親と婆様の喧嘩に、麻智が鈴鹿の足を突っつき合図する。 「早く食え。」 鈴鹿は頷き、とばっちりが来る前に食べ終わると、麻智と一緒に庭に出た。 麻智が錫杖片手に立ち姿で瞑想にはいる。 「あたしも、修行とやらをしようかな。」 鈴鹿は麻智に背中を向けて立て掛けていたほうきを被り挙げる。 「せんでもいいほど力はあるじゃないか。」 「でも、糸は解らなかった。……、あれって、紅葉さんかな?」 「違うだろ、あいつは、ただ嫉妬心が強いだけだ。」 「好きなんだ。」 鈴鹿が振り返ると、麻智は顔を赤くして逸らした。 (そうか、好きなんだ。)そう思うと少し切なくなってきた。 「じゃぁ、あの昼間の鬼はどこから来たのかな? 確かに鬼だった。だって、たるたるの皮膚なんて、そういないよね?」 「鬼の気配はした。しかもあれは人を驚かせるだけで、危害はなかったが、お前が窓から飛んだとき、物凄い力は感じた。」 「助けに来てくれたのよね?」 「注意しに行っただけだ。力を使うなって。」 「……。そうなの? なぁんだ。すんごーく格好いいタイミングだったのになぁ。聞かなきゃよかった。でも、風神使ったでしょ?」 「じゃなきゃ、受け止められるかよ。」 「踏ん張らなきゃ。」 鈴鹿がそう言う姿勢をとると、麻智は呆れて首を振り、目を閉じた。 「瞑想とか、黙想とかしてる時って、何考えてる?」 「切っ先。」 「切っ先?」 「ああ、剣の先端を眉間にあてがわれているような危機と、焦燥と、それに関する不安や恐怖。」 「それして、何かあるの?」 「非常時の冷静な判断さ。そう言う危機や焦燥を感じて、それを麻痺に変える。」 「それって、修行ってよりも我慢くらべね。」 麻智が笑った時、錫杖の輪がなった。二人して錫杖の輪を見る。 「鬼が居る。」 「近く?」 「かなり。」 「紅葉さんかな?」 「あいつは違うって言ったろ。」 麻智の即答に鈴鹿は不安を感じた。鈴鹿にはただならぬ風によって運び込まれている雰囲気はまさに紅葉に似ていて、おぞましいほど鈴鹿に敵意を表しているというのに、麻智はそれを違うと断言したのだ。もし、紅葉にあっても、麻智は紅葉を討つことは出来ない。そうなれば、紅葉に取り込まれるか、紅葉の側で、廃人となるしかないだろう。 「行くの?」 「ああ。」 麻智は風神雷神を呼び出し、身支度をしている。 鈴鹿は自分の部屋に上がり、目にした物を掴んで庭に出て行った。 鬼の気配に、両親と婆様が出てきていた。 「これ。これ持っていって。」 麻智は顔をしかめた。ケースに入っていないただのCDだった。 「なんだよ。」 「お守り。」 鈴鹿は麻智に突き出し持たすと、家に上がった。 麻智はCDを眺めて婆様に手渡そうとすると、婆様は首を振り、行くことを薦めた。 麻智はしょうがなくそれを腰からぶら下げている袋(普段は托鉢皿などを入れたりする。)に入れて出て行った。 「あれがなんに役に立つと言うんだ。」 父親の言い捨てかたに婆様は杖で地面を叩き、淫鬼の爺を呼び出した。 「如何しました? 大御所様。」 「麻智を追って、戦いを報告しな。特に、あの子が渡した丸っこいレコードに気を付けるんだ。」 淫鬼の爺は頷いて姿を消した。 「儂も解らんよ。なんであんな不必要な物を麻智に渡したか。でも、鈴鹿には妙な力がある。もしそれを宿していたなら、どんな物に化けるか。」 婆様は麻智が走り去った方を眺めた。 鈴鹿は部屋で蹲っていた。どきどきして胸が痛い。息苦しくて、身体が痺れている。想像する物は、麻智が糸に絡まっている姿だ。 「苦、しい。」 |
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