華々しい登場

 彼女が飛行機のタラップに姿を現したのを、誰よりも先に認めたのは、彼女より少しは年上であろうと思われる好青年だった。
 背の高さは今時の若者らしからぬ低さで、それでも百六十五ぐらいはあるだろうか。その身長の癖に、人当たりの良さそうなさわやかな、実にさわやかな笑顔が、誰にでも認めてもらえそうなほどの美顔の持主だった。
 彼は大腕を振って彼女の名前を呼んだ。彼女は何の反応も無くただそちらを見た。眉一つ動かさずに。
 彼の大袈裟なほどの親しみや、歓迎の声に彼女は一切の感情を表さないのだ。そればかりか、こんな公の場だからと言う恥ずかしがる風も無く、ただ眼鏡越しに彼を見た。
 眉で切り梳かれた前髪、長い後ろ髪は二つに分けて結わえ、化粧の無い顔は少し青白く、血色さえ悪そうな印象を受ける。口紅に一応施されている色付きリップぐらいしか飾ってないのが、その服装にも見て取れる。
 まったく、女の子らしからぬ軽装だ。確かに気候は初夏を思わすいい時期だから軽装なのは居たって結構だが、そのシャツは長年着込んだ男物の服で、丈夫だからと言う理由で着ていることは、彼も知っている。そして、男物の半ズボン。何故それが男物だと思うかは、それが男性専門のイギリスのズボンメーカーの品だからだ。
 靴は履き古したスニーカー、靴下はよれたくすんだ白。持ち物は、ボストンバック一個だけだ。
 何故だか、彼女は税関を顔パスできる身分にある。それは、父親が有名な国際警察の長官をしていることもあるし、その父親、つまり彼女の祖父はアメリカの情報局(FBI)の特別顧問であるのだからだと思うが、それ以上に、彼女の頭脳もなかなかに優れているためだと思う。
 なんせ、華々しいそのパスポートには、国家機密任務遂行中という各国の首脳の特別なサインが入っている。ある時はとある国の国王だったり、大統領だったりする。
 その手柄はほとんどがその土地の各警察のものとなるから、彼女は居たって安全ながら、至って不自然にいろんな国に入り込めるのだ。
 税関を抜け、開けた場所で、待ちきれなかったのか、たいした距離でもないのに彼は走り寄ってきた。
「久し振りだね。元気だった? 」
 彼の言葉に、彼女は返答の変わりに鞄を差し出す。彼はそれを受け取り、更に小さな彼女を見下ろす。

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