FORD家の密事
真夏だと思っていた。かなり暑くて、じっとしていても暑さが身体にこもるほどだったからだ。でも、日本ほど煩くないのは、蒸せていない所為だろう。しかし、まだ六月に入ったばかりだった。
アメリカでも有数のリゾート地として有名な西海岸のとある場所。確たる名前はこの際関係無いので省略するが、誰もが一度はその名前を聞き、一度は訪れたいと思うはずの場所だ。
その有名な海岸から徒歩で十五分ほど山手に上がると、その山にはいくつもの別荘が建ち並んでいて、その中でも一際夕日に映えるように外壁が白い「青翼の家」それがこの家の呼び名だ。三棟で構成されている別荘の、その特徴の青い屋根が左右にあり、真中の屋根は左右の屋根よりも低く出来ていて、それが更に羽を広げた鳥のように見せている。
客はベルを押した。
青翼の屋根が覆い被さるように見下ろしている感覚を覚えて、人々は俯いた。
客は三人だった。一人はアメリカ人で、陽気でたくましい肉体をこれでもかと言わんばかりに強調させた格好でやって来た。名前はレストレード。職業はビルの警備員だと言う。
後の二人は日本人らしいが、アメリカから出たことがないらしく、まったく日本語を話せないと言う親子だ。父親はジュリーと名乗り、職業は教師だという。娘のほうは短い髪に、緑のコンタクトをしたアイリーンと言った。
二人はよく似ていて、会話をしなくてもお互いの意思疎通が出来るのか、父親の要望に娘は直ぐに、例えば新聞を取ってあげたり、例えば煙草と火を用意した。 さて、この青翼の家の住人を紹介することにしよう。ここの住人は、五十前のリチャード、つまりフォード氏と、その妻でヘレン。子供は、上から順に二十歳のアレックス、十六のジョン、十四のシルビアの三人。
使用人は、料理の腕は対したものだと評判の料理係りは夫婦で行っている。部屋室係りが一人、近くに住む主婦で、恰幅のいいご婦人だ。あと庭師の男、この男は非常に無口で、しかし、話すことが嫌いなほうではないようだ。と、フォード氏の運転手が一人、と、フォード氏の秘書のフィオという女性。[染めた]ブロンドが特徴で、いつも赤い口紅をつけている。結婚はしてないが、結構いい歳ではある。ただ、フォード氏との関係は、まったくもって無いとここで断言しておこう。
「アイリーン、ヨットはどうだい? 」
アレックスがアイリーンを誘うと、透かさずジョンが割って入る。
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