眼鏡越しの空

 一通の手紙が届いた。
 今はイタリアに居る。少し肌寒くなってきて、今度こそは日本に帰れそうだと言いながら、父はイタリア勤務を任されてしまったのだ。
 母はそんな大雑把な父に大した反抗もせず、子供を引き摺りながら世界中どこでも父について行った。
 たしかに、母は、父無しでは生きていけない人だ。買い物こそ最近は一人で出掛けれるようになったが、その迷子ぐせと、記憶力の容量の無さに、彼女、栗栖 愛梨は小さい頃からしっかりせざるを得なかった。
 愛梨が十六になった日、イタリア転勤が決まったのだ。ICPOの長官ともあろう人でも、転勤があって、それを余儀なくされるのには、結局、ただの管理職なのだと、愛梨はその頃から諦めに似た納得をしていた。
 愛梨がイギリスでブラック・ピースを見て既に一年が過ぎようとしていた。その出会いはかなり強烈で、鮮明に思い出される。
 彼は日本人だ。という噂はあったが、その証拠も根拠も何一つ無かった。ただ、その仕事の後の「お裾分け」行為からそう呼ばれているだけだったが、愛梨は確信した、彼は「日本人」だ。ブラック・ジャックを知っている人は多いだろう。でも、それが軽くイギリスの屋根の上で聞けるとは思わない。  しかも、愛梨が「アイリーン」と名乗ったことに対して言った言葉だ。ひねくれたユーモアのあるイギリス人なら[ホームズ]というだろうし、フランクなアメリカ人なら「そのもの」自分の名を語るだろう。
 そこで「ジャック」など、そう名付け様かと思ったことがある人、「日本人」以外考え付かなかった。
 それと、あの髪の色と眼の色が日本人の色をしていた。アジア圏内同じようなものであっても、あれは、日本人しか持ち得ない、日本らしい色だ。表現も、言い表すことも難しく、説明不足で、少々困惑されるだろうが、本当に、日本人しか持ち得ない色なのだ。
 とにかく、各理由から愛梨はブラック・ピースが日本人であって、愛梨に何らかの事を仕掛けてくると思っていた。唯一の目撃者であるのだからだ。
 でも、一年経っても何の連絡も無いのは、愛梨がどこの新聞社にも、警察にもそのことを話してないからだ。
 話して何の得になろう。愛梨はそう考え、今までのブラック・ピースの記事をファイリングし始めた。

NEXT→


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送