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 ブラック・ピースが登場したのは、今を遡ること三十年前。初代ブラック・ピースの獲物はほとんどが美術品だった。現在そのどれもがオークションに出され多額の取引をされるに至る。とある老人の家にそれらは隠されていた。それが奇妙な点だった。初代ブラック・ピース死去(推定するのだが)後、各新聞社に遺書として発表され、捜索した。それが、その家の持主は、更に遡ること十年も前に不慮の事故―たしか、風呂場での溺死だったろうか―で死亡していて、死因が死因だけに買い手もつかず、廃墟と化していたのだ。誰かが頻繁に出入りした形跡も無ければ、一度に運ばれた形跡も無い。
 それが、このイタリアにあるのだ。
 愛梨はその記事を頼りに、片田舎に向かった。眼下に広がるのはブドウ畑のようで、収穫を終えてひっそりとした畑が広がっている。
 愛梨はそこへ汽車(電車なのだが、汽車といったほうが長距離を走っている気になるので、そう記させて頂く)に乗って向かった。
 愛梨の小遣いで、両親に心配の無い言い訳で向かうのには、なかなか頭をひねったが、以外に簡単に話しはついた。
「マッターホルンを見に行きたいんだけど。」
「登るのか? 」
「まさか。登山なんて死んでも嫌よ。ただ、その風景を見てたら―と今年のカレンダーの写真を指差し―見てみたくなって。」
「そうか、じゃぁ、列車で行くんだな、いい景色だぞ。」
 父親は旅費の半額をかた持ちしてくれた。母親は名物の―何とか言った―ワインを買って来る様にと少々多めの小遣いを渡してくれた。
 資金は沢山ある。そのブラック・ピースの遺産で有名になった家は、当時はやはり名物とされたが、今はひっそりとして、かえって薄気味悪く―なるほど、こんな場所なら誰も寄りつかなそうな場所―になっていた。
 愛梨が屋敷の周りを見上げながら歩いていると、迷惑なイタリア人が声をかけてきた。
 とかく、このイタリア人気質が鬱陶しく思えてならない。一人で居る女性に声をかけないのは、イタリアの恥だとする、いい加減な発想が、愛梨のため息を誘う。
「何の用かなぁ? 」
彼は意外にも若くて、背の高いイタリア人だった。鼻が高く、鷲鼻でないにしろ、鼻が目立ってしまう。小首を傾げている彼に愛梨は家のほうをチラッと振り返り、
「この家、誰も住んでないの? 」

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