王宮の花火の音楽

 イギリスの片田舎に来た。ここいらはまだ[古きよきイギリス思考]が重心で、中世に建てられた年代物の煉瓦城が目立って立っている。近所の店さえ、置かれている品こそ近代物だが、外観は居かにも古く、一見すれば廃墟とも見間違えてもおかしくない。まるで、百年前の時代そのままの村は、近くある祭りの為に、その外村から更に孤立した風景をしていた。
 人々は、一九〇〇年代を味わおうと、女性は見苦しいコルセットを締め付け、男性は紳士気取りでステッキを振り回していた。
 長いスカートの裾を少し抓み、彼女は店から出てきた。先に、その店―洋品店―から出ていた連れの元に近寄る。
「似合ってるわよ。そう厳しい顔しなければ。」
 彼女はそう言って笑う。
 経緯は、一週間ほど前だった。FBIのイギリス支部に属しているリュークは、仕事で知り合った奇妙な日本人、栗栖 愛梨と再会する事になった。
 愛梨はリュークの家に突然やってきて、リュークの上司であるレディ・レイの指令文を差し出し「さ、行きましょう。」とリュークを連れてきたのだ。
 イギリスでもかなり田舎で、昔好きな輩しか住んでいない場所だとリュークは思っている。
 命令文は、簡素簡潔「愛梨嬢と捜査しろ」という文だけだった。
「内容は? どんなことだよ! 」
 と叫び、周りに当り散らすリュークを連れて愛梨はこの村にやって来たのだ。
 栗色の髪に、それと似た色の瞳、背が高くて体躯がいい。学生の頃クリケットの選手だったと言うリュークは、ふてぶてしく愛梨を見下ろした。
 愛梨はその格好が気に入ったと見えて、窮屈になったウエストをガラスに映して微笑んでいた。
「で、今度はどうするんだ? まさか、馬じゃないだろうなぁ。」
 愛梨はその村の中心地から見える丘の上を指差していた。そして二人は[馬車]に乗った。
 馬車など居心地のいい物ではない。がたがたと道の石を拾うし、椅子のクッションだって悪い。なにより、格好が気に入らない。

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