もっと、ずっと……。

 栗栖 愛梨は日本行きを決めた。両親にはイギリスの学校での「日本留学の特異」を説いて納得させ、単身生活を許したのだ。
 しかし、それが狂ったのは、ほんの[親孝行]と言って出席したことによる。華々しい社交界での宴席に、愛梨はつまらなく立っていた。
 愛梨の隣にはアンディーが、更にキャビアだのフォアグラだの、トリュフを乗せて立っていた。ワインはがぶ飲みするし、肉は食い千切る様に頬張る姿に、[こいつ、本当に、パリジャンか? ]と思いたくなってくる。
 愛梨はワインレッドのカクテルドレスを着て、長い髪は巻き上げていた。飾り気も化粧毛も無いが、それでもいつもよりはずっと[女の子]に見える。
「あそこに居る奴、知ってるか? 」
 アンディーが顎をしゃくりあげて指し示すほうを見ると、テレビでお馴染みの顔触れが立っていた。
「たしか、どっかの王妃と噂のある青年実業家。」
「マイケル・ジョン・クライン。まだ三十で年収億を稼ぐ敏腕。その隣が落ちぶれてはいるが、それでも立派な貴族だ。サー・の官位もある。サー・ビル・シネトラ。二人とも、その王妃様の噂の相手だ。あの奥に立っている黒尽くめの男居るだろう? 唯一入れたカメラマン。得意なのは戦争写真だが、金で動く簡単な奴で、今は、どっかの会社の社長が、実業家狙いで雇っているらしい。たしか、ステファノって言ったなあ。」
「イタリア人か? 」
「さぁ。そこまではしらん。」
「ところで、一つ聞いていいか? 」
「何なりと。」
 アンディーはそう言ってワインを飲み干す。愛梨はそれを待って「何でお前がここに居る? 」と聞くと、アンディーはさも当然のような顔をして言った。
「お前、そのために来たんじゃないのか? 」
 愛梨が首を傾げると、城内が暗転した。そして一角だけを照らすピンスポットが会場の入り口に当たると、そこから目映い宝石を散らしたネックレスをつけた王妃が登場してきた。

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