Back←


 三十前半にして王妃となった彼女は、少々少女が抜けてなくて、いつも夢見ごこちのようなふわふわした印象を受ける。喋り方も実にゆっくりとしていて、暢気とか言うのとはまた違った印象を受ける。
「あのネックレス、」
 アンディーの言葉を遮るように愛梨が続ける。「[王の首飾り]地元では[犬の首輪]だったね。たしか。」
「あれを、ブラック・ピースが狙ってるらしい。」
 愛梨が暗転の会場の中アンディーを見上げる。その素早くて、鋭い視線への変身は、アンディーが見たどんな奴とも違っていた。驚きの中に光と力強さがあった。
「ブラック・ピースが? 」
「お前知ってて、来たんだろ? 」
 愛梨は首を振る。
 なるほど、アンディーがここに居るわけが解った。ICPOの長官、つまり愛梨の父親による要請があったのだ。アンディーは愛梨の口入で、ICPOの長官の情報屋として活躍している。格好が、前に比べればよくはなってきたが、どうしても、その生まれ持ったがさつさは直らないようだ。
 ICPOに限らずCIAやFBIにもブラック・ピースを専門に行動する刑事は多い。それらを特に[ジャッカル]と呼ぶらしく、この会場にも、父の部下で、そのジャッカルの「ジャップ主任警部」の姿も見える。
 灯かりがつき、王妃の挨拶が始まった。だが、やはり噂と見た通り、王妃は優雅に一言「こんばんは、皆様。」と言ったきりだった。
 容赦無くその場は音楽で誤魔化され、人々は談笑に戻った。王妃は椅子に座り、側に寄ってきた方々と話を始めた。話というよりは、謁見の近く、誰もが肩膝をつき、かしこまった事しか言ってない。
 愛梨の顔を見つけるなりジャップ警部は近づいてきた。
「これはこれは、アイリーン嬢。お久し振りですな。」
「本当に、ジャップ警部殿もお元気そうで。今宵はいかがいたしましたの? 息抜きには余りにも肩が凝りましょうに。」

NEXT→


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送