悲しい記憶

 エラードがやってきたのは、あの日から数えて三日後の昼前だった。
 その間に庭の休憩所はすっかり出来上がり、庭もなんとか形になっていた。
 セリーリャスはバラ園の中央のベンチで侍女達とお喋りをしている最中だった。
「それで、あなたが?」
 セリーリャスはきょとんと、立っているエラードを見上げた。
 エラードの申し出は次のようなものであった。
「聖戦士の件は辞退申し込みを許されたが、こう言っては失礼だが、あなたは以前も含めて常識に欠けている点があります。それを補うため、家庭教師をつけるようお勧めします。」
 と言うのだ。その家庭教師をエラードが進んですると言うことに、セリーリャスは驚いているのだ。
「でも、あなたはお仕事があるでしょ? それに、わざわざあなたのような立派な方に来てもらって果たしていい結果が出るかどうか。」
「私で心苦しければ、私の信頼できる友を置いておきましょう。如何ですか?」
 そう言って紹介されたのはレノという男だった。出身はあまり良くないらしいがエラードの信用はどの人にも負けない。低い身分の貴族でありながら、才気溢れる雰囲気を持っている。
「如何ですか?」
「と、言われても、そう言うことはカルネロさんにも相談しないと。」
「あなたがこちらの当主でしょ? 何の相談が必要です?」
「だって、やっぱり、ねぇ。」
 セリーリャスは言葉を渋り、ややあって『お金がね』と言うと、エラードは黙った。レノはずっと俯いていたので、どういう表情をしているかなど解らないが、でも確かに驚いているようだった。
 あの浪費家の言うことではない。そう言うのが二人の内心だった。やはり記憶喪失というものは、人の本質自体も変えてしまうのかも知れない。
「セリーリャス様、私もお勧めいたします。お勉強をなさりたくないのならば、無理はよろしくありませんが。」
 カルネロが直ぐに口を挟むと、セリーリャスは暫くして肯いた。
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Juvenile Stakes

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