le Souhait




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 湊は椅子に座り部屋を見渡し、アーデルハイトの視線に気づいて彼のほうを見た。
「まずは、君たちは誰なんだ?」
「誰、といわれても、ねぇ。」
 湊は彬人を見る。彬人はアーデルハイトのほうを見て口を開いた。
「地球という名前の星を知ってる?」
「ここだが?」
「じゃぁ、今は西暦何年?」
「今? 2005年だが?」
 湊が彬人の腕を掴む。
「どういうことよ。」
「同じ地球の、数年の差があるにせよ、同じ時間。しかし、俺たちの世界にこんな世界はない。」
「ああ、ないね。じゃぁ、本の中? 今はやりのイギリスマジックムービーの中?」
「適当な名前をつけるな。ややこしい。とにかく、俺たちの世界じゃない。」
「夢だと立証されたなぁ。」
 湊が腕を組んで頷くと、その後頭部を彬人が叩く。
「痛いじゃない。何すんのよ。」
「痛い夢?」
「……、そういうものがあってもいいでしょう。たまには。」
 彬人は呆れながら首を振り、アーデルハイトのほうを見た。
「俺たちは別の世界から来たらしいことしか、俺たちも解らないんだ。光に吸い込まれてやってきたら、俺はあなたの馬の前、こいつは奴隷商に売られそうになっていた。それだけ。」
「なんだかおかしな話だが、君たちの名前や、その格好が、妙に説得力がある。」
 そういわれて湊は自分の服装を見た。
「げげ!! パジャマだよ。どうりですうすうすると思った。」
 彬人が呆れて窓のほうに顔を向けるのを、湊は舌を出す。
「ご主人様、隊へお戻りのお時間です。」
「ああ、そうだった。君たちもどうかな?」
 湊は彬人に首をすくめ、彬人はそれを見てアーデルハイトに頷いた。
「その前に、彼女のお母さんを探してあげてよ。見知らぬ私たちが協力するよりよほどいいもの。」
「じゃぁ、私の部下に頼むようにしよう。とりあえずは軍地へ行こう。」
「軍地?」
「軍の基地だろうな。」
 湊は外出用の外套をつけるアーデルハイトを見ながら頷いた。

 軍地とはいえ、アーデルハイトは演習場側の芝生までしか湊と彬人を連れて来なかった。見渡す限りの土地は軍の演習地らしく、騎馬兵が数人向こうのほうに見える。
 アーデルハイトが三人の部下を連れてやってきた。
「彼らに任せよう。」
 そういわれた三人を見て湊は一人の若者を指差した。
「彼がいいわ。だって、彼には恋人が居て、お母さんしか居なくて、もし、しっかり仕事をしてこなければ、どうなるかわかるはずだもの。」
「あこぎだなぁ。」
「あぁら、軍人心理を突いているといって欲しいわ。」
「くだらん。」
「とにかく、彼なら彼女のお母さんを一生懸命に探すわよ。どうなるか、解ってるものね。」
 湊は彼に微笑むと、彼は踵を打って敬礼した。そしてリーズと一緒にその場を立ち去る。
 アーデルハイトはそれを黙ってみていたが、湊がリーズに手を振るのをやめると、残った一人に耳打ちをして演習場の説明をし始めた。
「向こうは砲撃用で、その向こうは地雷地だ。」
「あの、質問。」
「なんだ?」
「何で軍があって、演習があるの? そんな戦争をしている相手が居るとか、それとも、うちはこれほど強いから戦争を仕掛けるなって言うの?」
「両方あっているな。」
 湊は首を傾げ彬人を見た。彬人は演習地のずっと向こうを見つめていて、湊とアーデルハイトの会話など聞こえていないようだった。
「われわれの敵は魔獣だ。」
「魔獣? じゃぁ、魔法使えるの?」
「そんな非科学的なものはない。」
「魔獣自体非科学的じゃない。」
 暖かい風が湊の髪を撫で上げ、その直後馬の嘶きが聞こえた。振り返ると赤い甲冑を着た女が湊たちを見下ろしていた。
「何者だ。アーデルハイト。」
「は、マールバラ少尉殿。彼らは、」
 アーデルハイトが説明をしているのを見ながら湊は小声で彬人に話しかける。
「少尉?」
「軍位10等ってところだろうな。」
「えらいの? えらいんだよねぇ。あのアーデルさんが敬礼してるんだもの。」
「人の名前を短縮するな。」
「だって、アーデルなんたらって呼ぶほうが失礼でしょ?」
 彬人は呆れて首を振るだけだった。そこへ、先ほどリーズと一緒にいった彼が帰ってきた。
「見つかったの?」
「はい。すぐに。それでこれを。と。」
 折りたたまれていたスカーフを広げ、湊はそれを肩にかけた。
「ほぅ。あったかい。」
「そういやぁ、お前風邪引いてたんだっけな。」
 湊は乾いた笑いをしてアーデルハイトと、マールバラ少尉のほうを見た。二人は、こちらを見ていた。湊と目が合ったマールバラ少尉がかすかに動揺した。

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