le Souhait




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2 夢かうつつか

 湊の居る場所はどう見ても馬車の荷台だった。しかも、湊は無造作にそれに乗せられたようで、湊が乗せられたおかげでその周りに居るものが窮屈そうな体制を余儀なくされたようだ。
「大丈夫?」
 アールグレーの綺麗な髪の毛の女性が湊の体を起こしてくれた。
「どうも。あの、ここは?」
「ちょうど、ウィクトンスに入ったところです。」
「はい?」
「ウィクトンス。街の名前です。大都市で、私たちはそこにある、市に向かうんです。」
「市へ、買い物って訳じゃないわね。」
 湊は乗っている人たちを見た。貧しい姿をした女に、子供。そのどれもが奴隷商に売られるのだろう。
「ははは、夢にしちゃぁ、待遇よすぎ。」
 湊は小声でそう言って馬車の前方へと目を向けた。砂漠の道が徐々に石畳に変わり、馬車の乗り心地もよくなり、簡素な人通りも賑わいを見せ、昼辺りになれば人の所為で馬車の進みが悪くなった。
 湊たちを乗せた馬車は一軒の大きなひさしを出している店の前に止まった。出てきたのは恰幅のいい女で、順に降りる湊たちを見下し、舐めるように見て運転手の男に金を払っていた。
「さっさとここに入りな。」
 そういわれたのは、大人がしゃがんで五人入る格子の籠だった。大人一人一万バル(100円/1バル)、子供二万バル、要年齢比。と書かれていた。
 湊が女将を見上げようとしたその頭を、女将は掴み、籠に入れようとする。
「痛い、痛い。……、髪飾り?」
 女将の手が緩んだ。湊は押さえつけられている頭の手を掴んで上目遣いに女将を見る。
「バレッタ? これが欲しいの? こんなんでいいならいくらでも。でも、その代わり、」
「お前の身の自由なんか、」
「ああ、違う、違う。私じゃなく、彼女を自由にしてあげて。」
 女将は籠の中に入っているアールグレイの少女を見た。
「自分はいいって? ……、いいだろう。」
 女将が手を差し出すのを、湊はその手を打ち払い、
「だめよ、彼女は自由じゃないわ。渡して結局嘘。なんてよくある話でしょ? そうそう、こしゃくな小娘って思っても、このままその籠に入れてもいいけど、でもこれは壊させてもらうわ。私しか作り方知らないし。いいのよ、せっかく目立つおしゃれだったのにねぇ。」
 女将の歯軋りがはっきり聞こえた。湊は空を見上げバレッタをちらちらと動かした。
「性悪女。」
 湊はすぐに振り返ると、彬人が馬上から見下ろしていた。
「夢の中でも嫌味な登場で。」
「誰の夢だって?」
「……、てことは、私が彬人の夢に居るのか、彬人が私の夢にいるのか、どちらにしても、彼女の自由が引き換えよ。」
 湊は女将を振り返ると、女将はしぶしぶ彼女を籠から出した。
「またあとでということがないように、ほら、金だ。ついでに、彼女も。どうやら私の客人の連れのようだから。」
 そういったのは真っ青な軍服を着た兵士だった。彼を見た女将はあろうことかしゃきっと背筋を伸ばしたほど、彼は有名で、尊敬されているようだった。
 アールグレイの頭がお辞儀をして、顔が上がってくると、湊は女将に近づきバレッタを差し出した。
「約束だからね。」
 そう言って馬から下りた彬人に近づく。
「何で、あんただけ馬なのよ。」
「顔の所為かな?」
「殴っちゃる。」
 湊がこぶしを彬人の顔の前に翳すと、彬人が湊の後ろを指差す。振り返るとまだ彼女が居た。
「どうしたの? お母さん探しに行くんでしょ?」 
 彼女の顔が驚き、そして覚悟を決めたように頷いて湊の顔を直視した。その目はなんだか今までにない目だった。
「私の村に伝わっている勇者様とおんなじです。」
 湊は首を傾げて、彬人を見た。
「勇者?」
「はい。人の心がわかる。」
「解らないわよ。」
「いいえ、私は一言も母を捜しているなど言っていません。それに、あの店の店主も、あの髪飾りが欲しいなど言っていませんもの。」
「それは、……、」
 湊は彬人のほうを見る。
「実際どうなの? お母さんを探してるの?」
 彬人に聞かれ彼女は大きく頷いた。彼女の話ではすでに三年も前に村を出てこのウィクトンスにきているらしい。
「私も聞いたことがある。」
「誰?」
「俺を助けてくれた、」
「アーデルハイトだ。」
 湊は顔をしかめ彬人を見る。
「洋名?」
「だな。」
 湊はため息をついて彼女のほうを見る。
「名前は?」
「リーズです勇者様。」
「勇者ねぇ。」
 湊は乾いた笑いをして彬人を見る。
「とりあえず我が屋敷に来るがいい。アキトの話も面白かったし、そなたの話も聞きたい。」
 湊とリーズはアーデルハイトと彬人の馬に乗り、アーデルハイトの屋敷に向かった。
 簡素な住宅街の家は、石の壁の中にレンガ造りの大きな屋敷で、庭にはお茶用のテーブルなどが置かれていた。
 居間に通されると、白を貴重とした家具が、すっきりとそろっていた。

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