復活

 今でも田舎に行けば、日本にも広がっている田園風景。山間の小さな里に、ゆっくりと春の足音が近付いていた頃だった。
 雪解けの冷たい水が地を這って山から滑り降りてくる。真新しい緑の芽が吹き、活気が少しずつ戻ろうとしているように、一見長閑な山奥の小さな集落で、それは確実に進み、そしてその元凶は、集落のあちこちで見られていた。
 突然、食器棚の皿が吹き飛び、危うくそこの女主人は喉に当たりかけ死ぬところだったとか。
 ちゃんと停めていたはずの車がそれほど出ないのでは無かろうかと思われる坂道を、猛スピードで下ってきたり。という不可思議なことが起こっていたのだ。
 そしてとうとう、新夜の、ほとんどの闇が黒塗りされていたとき、怪しく、淡い桃の光を出して、それは静かに割れた。雷鳴も、豪雨も、そして、怪しげな物の怪の気配など無く、それは静かに『それだけ』が起きるためだけのように割れた。
 そこには、一匹の鬼を祀っている大岩があるだけだった。そして、割れたのは、その岩だった。
 怪しくもそれに吸い込まれそうな、誘惑めいた淡い光が放たれ、一匹の鬼は、ここに完全なる姿を持って復活した。 
イラスト:えあり

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